カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

再び北で骨休め

前回の休暇のメモがサンクトペテルブルクの直前で途絶えてから(飽きっぽいんだこれが)、気が付けば丸二年。
二年ぶりの夏休みは諸々の事情によりまた同じところを訪れることとなったので、帰国してから2016年と2018年を行ったり来たりしながら備忘録の続きを書きつけていこうかなと。

前回の目玉はマリインスキー劇場、今回の目玉はミハイロフスキー劇場。
マリインスキーの面々は東の国に巡業に出ているので留守だしね。石井久美子にとっては凱旋公演か…

 

https://em-ar-kay.tumblr.com/post/181149616170/2016年12月15日のマリインスキー劇場iphone6
 
さてそろそろ出立だ。

穴場のインゲヤード・ローマン展

10月最後の日曜に訪れた*1国立近代美術館工芸館のインゲヤードローマン展。

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閉館一時間前には入るべし。理由は後述

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コレクションには磁器もある

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段ボールの天板がユニーク

彼女はプロダクトデザイナーなので展示品の殆どは売り物であり(我が家にも二つばかりある)、計算された照明と配列で整然と並べられた様は壮観ではあるものの、一点物としての希少価値がある訳ではない。

見所は15分もあれば見終わる展示物よりも寧ろ出口の前に設けられたスクリーンで再生される彼女のロングインタビュー。

 

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物づくりにおける彼女の美学と矜持、細部への拘り、日本と日本の職人との縁、またオリジナリティに価値を認めない昨今の消費者への失望と葛藤など、およそ30分に渡り余すことなく語られていて見応えがある。 

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テロップの代わりにモニター前のベンチに邦訳プリント。三つくらいしかないので頑張ってキープすべし

母国スウェーデンの工房も少しだけ登場している。彼女の作り出すガラスの器と同じように華美とは無縁で線が少なくシンプルだが清潔な美しさを持った、白く四角い小さな家。

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インタビュー映像はループ再生されているが是非初めから最後まで見通すべし。したがって閉館ギリギリに訪れるのはお勧めしない。
展示期間は2月までと長く設けられており、(訂正:12月9日までなので今週末で終了。フェルメールはさて置いてもこちらへ急げ!)前述の通りの事情で観客も少なくゆったり見れるので大混雑のフェルメール展にうんざりしたらここで骨休めするのもいいと思う。といって梯子するには少しばかり遠すぎるが

 

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さすがの重文

初めて訪れた工芸館は明治期の築と思しきレンガ造りの壮麗な建築物で、気になって調べてみると戦前は近衛師団司令部が置かれていた由緒正しき建物。さすがに旧軍のエリート集団にはそれなりの職場が用意されていたものだ。実に羨ましい。

*1:S氏と被ったが後追いではないというアピール。笑

アオダモ紅葉

冬を目前にして我が家のアオダモも紅葉および黄葉。
先代のナツハゼほど綺麗には色づかないものの、この色の移り変わりこそ落葉樹の醍醐味。

 

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夜になると下から照らされステンドグラスのように光って見える葉と青白い木肌の組み合わせが美しい。

 

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 黄葉と並行して加速度的に葉を落としつつあるアオダモ。最後の一枚が落葉すると同時に冬が始まるよ(Ⓒマッキー)

 

好きか嫌いかの家づくり

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三連休の週末に家づくりのウェブメディアhouzzの取材。
ウェブメディアの取材はこれで二回目か三回目か、「都心の家」「小さな家」「単身者の家」の全てを兼ねる家はまだまだ珍しいものであるらしく、偶にこのような機会がある。

なぜ(単身者なのに)家を建てたのか、なぜこのような家を建てようと思ったのか。
これこれこういう計算でこうしました、と誰もが納得し膝を打つような見栄えのいい答えがあればよかったのだが、全くそうではなかったので余り記事として面白いものにはならないのではないかと思う。だが本当のことなので仕方ない。有り体に言えば偶然その気になった時に偶然気に入った出物(土地)があって、偶然それを実現できるパートナー(S氏)がいたというだけの話なのだ。
ただはっきりしているのは、我が家は単純に自分の「好き」を追求して作り上げた極めてパーソナルかつエモーショナルなものであって、決して冷徹な損得計算の産物ではないということ。損しないように損しないようにという気持ちが先に立つのでは納得のいく家づくりなど出来ない。なぜなら損しない家づくり=資産として流動性が高く換金が容易な家づくりとは世間一般の最大公約数を追い求めることに他ならず、そしてそれが自分の「好き」が一致することなどそうそうないからだ。

ミニマリスト界隈で有名な買い物の極意として
「買う理由が値段なら買うな、買わない理由が値段なら買え」
という文句があるが、自分はこれに

損得で選ぶな、好き嫌いで選べ

を加えたい*1。大事なもの、高価なものであるほどだ。
何となれば嫌いなものはいつまで経っても好きに転じることはなく、損得勘定でそれを我慢するのは人間の感情に反する。自然な感情を我慢し続ける心にはじわりと歪みが生じるし、生きる上で歪みなどないに越したことはないからだ。買い物でも人間関係でも損か得かで判断する人生などつまらない。

とはいえ現代社会で人間が生きる上で金が必要不可欠なものである以上、好き嫌いで家を買うことにより発生するリスクを負えるかは冷静に判断しなければならない。
ローン返済で行き詰るリスクが少なからずあってその際には家を売却して清算するつもりの人、年を取ったら家を売却して老後資金に充てるつもりの人、あるいは何年か住んだら売却して売却資金を元手に住み替えるつもりの人が流動性が低く将来の資産価値が見込めない家、例えば都心から電車で90分、さらにバスと徒歩で30分の地に35年ローンで豪邸を建てることなど、幾らそれが「好き」であったとしても恐らく正解ではない。家づくりで「好き」を貫くには裏付けとなる金が必要で、それが覚束ないのであれば「好き」は諦めて損得勘定で家を選ぶか、家自体を圧縮して「好き」を実現する予算を抑えるかしかない。
その冷酷な現実を前に、資産家ならざる自分は後者を選んだ。そういうわけで。

 

*1:結局同じことを言っているのに過ぎないのだが。

ウッドデッキ塗油2018秋

半年に一度のルーチンとしているウッドデッキ塗油。

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塗油前

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塗油後

2016年春の完成から塗油も六回目ともなると、正直言って作業前後でそれほど劇的な差が生じるわけではない。ただ何とも言えぬ、すりこまれる油と雑巾がけと雨風によってのみ生み出される風合いが深まっていくようないかないような。

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週に一度のブラシがけで抜けた毛の花が咲き乱れるウッドデッキ





やんごとなき御方のやんごとなき御車も

やんごとなき事情によりとっくに寿命、と。
はいここで「やんごとなき」という単語の二つの意味を使用しました

1990年に購入したロールスロイスはパーツが手に入らず修理不可で2007年に廃車とあるが、事実であれば4,000万円もの大枚を叩いて誰もが認める世界一の高級ブランド車を購入したとしても「僅か27年」で修理すらできなくなり鉄屑と化してしまうということを意味する。セレブリティ向けの特注は高級ブランドのお家芸だし、御用車であるという事情を明かして依頼すれば欠品パーツの一つや二つ何とかしてくれたのではないかと思うのだが、それすら効かなかったということであればなんともお粗末という他はない。*1昔ならいざしらずBMWの一ブランドに成り下がった今のロールスロイスに職人のプライドは期待できないということなのだろうか。
それなら格は大分落ちるがトヨタにした方がいいだろうな。トヨタと雖もセンチュリーの塗装品質は既にロールスを凌いでいるという*2し、何といっても皇室御用車であればどんな注文にも応じてくれるだろう。どんなのが納車するか楽しみだ…

*1:パテックフィリップやモラビトやエルメスに昔のプロダクトを持ち込んで修理を依頼して断られることはまずあり得ない。どんなに昔のものといえども自社製品にはプライドを持って面倒を見るのは超がつく高級ブランドであれば当たり前の対応

*2:by福野礼一郎

維持できないからという理由でフロイスが献上した置時計を返した信長の気持ちはよく分かる

ヲタの拘りとして前回のエントリに突っ込まれる前に補足しておくと、4m前後の全長で後輪駆動のMT車は他にもあるにはある。小さいスポーツカーに目がない身としては、その辺をほじくり返せばいろいろ出てくるのは知っている。

スポーツカーの本場たる英国にはゴードン・マレーのアトムにジネッタと最近はゼノス、オランダにはドンケルフォールト、ドイツにはイエス!、はたまた日英合作のVEMACなんて変わり種もある。どれも素晴らしく魅力的なスポーツカーには違いないが、価格や信頼性の問題をさて置いたとしてもやはり購入候補に挙がることはない。
なぜか。余りにもマイナーで国内に取扱店がほぼ一つしかなく、それもいつ途絶えるか分からない。下手したらメーカー自体が消滅する可能性だって低くはないからだ*1。買って終わりの美術品ならともかく、メンテナンスや修理が欠かせない工業製品であれば、維持管理が心許ないものに大枚を叩く気にはなれない。

世の中に好事家(と書いて物好きと読む)と呼ばれる人種は多かれど自分はリアリスティックな好事家というべきもので、継続的な維持管理が困難なモノに後先考えず金を突っ込むことは決してないという、堅実といえば堅実で面白くないといえば面白くない、貧乏性といえば貧乏性な男。よくよく考えてみれば、そのような人間が独り身で建てる家がLWHの如きものとなるのは必然であったのかもしれない。

 

*1:実際に上記メーカーの中でもいつのまにか唯一の代理店で取扱いが終了していたものもあればメーカーが消滅してしまったものもある。そのような車は維持管理が困難を極め、ただでさえ低いリセールバリューも暴落するであろうことはいうまでもない。自己責任とは言え、購入者にはご愁傷様と言うほかはない