カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

家を買う人、家を作る人

マニハウスのMさんがもしS氏を友人に紹介するなら
「営業力がないから大丈夫!」
と安心させるとのこと。
確かにグイグイ来る不動産営業に辟易している人には有効な文句。ていうか普通は友人にそんな強引な営業マンは紹介できない。下手したら人間関係に影響するので。
その通り、自身の信用にかかわると思えば下手な人は紹介できない。ここで自然に紹介者による一次選択が働くため、業者を選ぶのに「知人の伝手を頼る」というクラッシックな手段は意外に有効であったりする。

閑話休題
これに対するS氏の言い分としては「その営業力がない男の営業に引っかかったお前らは何なんだYo!(意訳)」とのことだが、はっきり言ってしまうと、自分も含めた施主がS氏を選んだのは残念ながらS氏の営業の賜物ではない。
というとS氏がますます落ち込みそうだが、ではなぜS氏が選ばれたのか。それはこれまで見てきた家とお会いした施主で分かる。自分も含めたS氏の顧客にとって家は作るものであり買うものではない、従って求めたのは家づくりのパートナーであって私にお任せくださいと見得を切る営業マンではない。みな確固たる意志をもって家づくりに取り組んだのは新築でもリノベーションでも変わりはなく、そのような人にとってはセールストークのうまさは大した意味を持たない。S氏が選ばれたのは家づくりにおける基本的な価値観を共有しパートナーとして相応しいという施主の判断の結果だろう。

逆に言えば家は買うものだと思っている人、高額な買い物は一所懸命に営業されてその結果として買うものだと思っている人、またはそういう体を取りたい人※1、一言でいえば受け身の人にとってS氏は実に相性が悪いし、営業の熱意とサービスを最重視する人、例えば月刊自家用車※2に値引き成功体験記を投稿するようなタイプの人にも全く響くところはないだろう。やる気あんの?と思われるのが関の山。

ではどんな人に向いているか。前述のとおり対話しながら家を「作る」意思がある人、また作りたい家に具体的なイメージがある人※3、自分の好みを把握できている人、ここだけは譲れないというこだわりがある人。こういった人には適合性が高いだろう。
しかしこういったタイプは少数派で、大多数の日本人にとってやはり家は出来合いを「買う」もの。そして時代のトレンドは簡便化。施主との対話という「面倒くさい」プロセスを重視するS氏の元に千客万来とはなかなかならない理由はここにある。決して営業力のせいではないのだ。

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※1 実際はどうであるかによらず「頼まれたからOKしてあげる」という体裁にすることが癖になっている人。特に女性に多いような気がするが、この癖は損することが多いから気を付けた方がいいと思う。
※2 「トヨタA店とB店と日産のC店とホンダのD店でそれぞれ見積もりを取って一番安い車にしようと思い最初に一番安い見積もりを出してくれたホンダD店の見積もりをもって各店を回ったらトヨタA店でさらに2万円安い見積もりを出してくれてこの営業マンは自宅に何度も来てくれる熱心な人だったのでここで買うと伝えて判子持って夫婦でA店に向かう途中でたまたまトヨタE店の前を通ったので何の気なしに立ち寄って念の為A店の見積もり見せてみたらちょっと待ってくださいと奥に引っ込んだ10分後に出てきて店長の決裁が取れたのでこの値段からさらに1万円値引きしますと言われたので大逆転でトヨタE店から買うことに決定、さらに妻の一言でガソリン満タン納車と愛車セットまでサービスでゲット。息の合った夫婦の連係プレーで賢い買い物ができたと大満足です!」みたいな香ばしい投稿が毎月紙面を飾るので有名な雑誌。色んな意味で自分には理解しがたい別世界がここにある
※3 なんでもいいけどお洒落でカッコいい家にしてくれます?みたいな人もS氏にはまだ早い。S氏はこの手の漠とした問いに対しあーはいはいこんな感じでいかがでざんしょとスラスラ書いて見せられるある意味器用なタイプではなく、あなたのことを知らないのにあなたが何をカッコいいと感じるか分かる訳ないじゃないですかと真顔で答えるタイプだからだ。