カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

諦めない家

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 日本人の家をちまちまいじって自分用にカスタマイズしたがるのは何なんだろうね。「標準的な家」というのを受け入れて自分がそれに適応すれば済むのに。だいたいマンション、アパート等借家住まいの人はそうしているのだから、適応できるはず。自分の家だ好きにいじらせろってかw

 

ツイで見かけた*1このような発言に代表される価値観から見れば、住まいのリノベーション、しかも新築から何年も経たない家のそれなどどうかしてるとしかいいようがない所業に違いない。しかしこのような貧困な(と敢えて言う)住宅観に甘んじない、諦めない人がS氏の建築事務所の門を叩くのだ。

先日リノベーションのお披露目会に訪問した家主のKさんもその一人で、その住まいである「中板橋の家」は正しくKさんが諦めることなく等身大の理想を追求した成果に他ならない。

購入当初からの不満が膨らんで売却まで考えるほどになったという家。気に入らない箇所があっても自分の選択であれば納得もできるのだろうが、購入前から自分の求めるカスタマイズが悉くハウスメーカーに却下されたというネガティブな記憶が頭にあれば不満は雪だるまのように膨らむばかり。ついには売却して建て直すことまで考えた家主のKさんがそのつもりでS氏に相談したらリノベーションを提案されたという経緯。

築三年でリノベーションと聞けば一般には随分思い切ったという印象を抱くが、本当はもっと思い切ったことをしようとしていたのだから寧ろ穏健な選択。これからの日本で買った当初より地価が上がることはまず考えられず、つまり売却すれば必ず損をする。今住んでいる土地が気に入らないとかでもなければ新築の何分の一のコストで済むリノベーションはもっとメジャーな選択肢となっていい。

 

ビフォーを知らない身でお邪魔した中板橋の家のどこがどう変わったのかはS氏が図面で説明してくれたが、床が木じゃないとか階段が暗いとかいう不満点が綺麗に解消されて真新しい杉の香りの漂う気持ちのいい家という印象。

 

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屋上に通じる階段は蹴込み板を外されて光が通るように。

 

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三階の図。廊下に残された複合フローリングがかつては全面に貼られていた。表面には本物のメープル(?)が貼られているので一見して無垢と違いはないように見えるが、木の床かといえばやはり違う。1mm程度に薄くスライスして接着剤で合板に貼り付けられ、表面をコーティングで保護された木の薄皮は呼吸もしなければ感触も木のものではない。言ってみれば樹脂とあまり変わらない。だがこれを無垢にしてくれといって応じる建売業者は皆無だろう。本物の木はパーツとしてはあまりに不安定であり、大量に仕入れてコストを下げる建売住宅の手法には全く適合しない素材だからだ。

十字の格子のガラス窓が入ったドアは新作。二階にも随所に十字の格子があり、レトロ可愛い意匠で統一されている。S氏は小窓が好きなのよね

 

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クローゼットの戸に開けられたこの穴は何だろう、ゴミはここに捨てればいいのかしらんと思ってしげしげと眺めていると

「これはドアの取っ手の逃げ。子供たちはドアを勢いよくあけるんでぶつからないように」

とS氏。

 

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なるほど。これは技あり

 近ごろの建売は筐体自体はよく出来ている。リノベーションで住み心地が一変するのであれば、内部を作り替える前提で気に入った土地の築浅の建売を狙うのがこれからの家づくりの賢い選択肢かもしれないね

 

 

*1:発言非公開なのでIDは晒さないでおくが、そもそも住宅に手を加えて自分なりにカスタマイズするのは欧米の方が遥かに盛んである一点からしても的外れな指摘であることは明らかで、一から十まで何言ってんだろうこの人というのが目にした自分の感想。