カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

銀座奥野ビルのスダ美容室

銀座奥野ビル306号室プロジェクト

竣工1932年、今年で実に築90年を迎える銀座最古の建造物の一つである奥野ビル

 

これまで震災や戦災で被害を受けることもなく、新しいビルに建て替えられることもなく奇跡的に建築当時の姿を保っているこの七階建てビルの内部で、更に奇跡的に建築時からリフォームされることなく往年の姿を保ったままなのが306号室のスダ美容室。

店主が身罷って空き部屋となったこのスダ美容室、普通に考えれば空き部屋となったこの部屋には新しい店子が入居し、室内を綺麗にリフォームして新しいお店を開くところだが、主のいなくなったスダ美容室の家賃を出し合って往年の姿そのままに維持しようという有志一同の試みが銀座奥野ビル306号室プロジェクト。

 


毎月6日の日だけ一般に無料公開するというこのスダ美容室に、冷たい雨の降りしきる6月6日に訪れた記録。

 

6月6日、雨

一階にはシューリペアショップが入居

どちらかというと小ぢんまりとした外観は、しかし重厚感に溢れ外壁タイルが落剥することもなく非常に良い状態を保っているように見える。耐震の概念もない時代に作られたビルだが、相当のコストをかけてしっかり建てられているであろうことは外観を一瞥してすぐに分かった。外壁のスクラッチタイルは張り替えられたようにも見えず、ということは90年の風雨に耐えてきたということで、いやタイルは長持ちするものだ。

 

内部に入ると天井の低さが時代を感じさせる。ドアの小ささと天井の低さ、すべてが小ぢんまりとしたサイズと不釣り合いに手すりはがっちりと太い無垢の木材と鋼材が使われ、現代のビルでは考えられないコストがかけられているのも好ましい。古い建物の魅力の一つは、細部に至るまでコスト度外視でいい材料を用いてしっかり作りこまれているところ。コスパなどという概念はないのだ

贅沢にも昇り階段と降り階段がそれぞれ設えられ、間に小窓が設けられている

 

コツコツと足音を響かせる古い校舎のようなコンクリートの階段を昇り306号室へ。
室内の天井は廊下に輪をかけて低く、やはり全てが小ぢんまりした可愛らしい二間がスダ美容室。椅子や散髪道具の類は撤去されているものの、壁に掛けられた鏡や台、照明や配電盤などはそのまま手を付けられず残されている。

台の上には現役時代のスダさんとスダ美容室を撮影したパネルが展示されている

壁はさすがにぼろぼろ、どこまで原状維持できるものか

扇風機も戸棚も待合のソファもそのまま

奥に見えるコートフックいいなあ。あれ欲しい

勿論窓枠はスチール、冬場は隙間風に耐えるため盛んにストーブを焚いたのだろう

ちょうど我が家のワンフロア、すなわち7.5坪程度しかないスダ美容室は隅々まで見ても5分とかからないが、辞する前に90年間の風景の移り変わりを映し続けてきた窓の前に立つと竣工当時の昭和7年の銀座に暫し思いを馳せてみる。想像もつかないが。

帰りは銀座最古の手動式エレベーターで一階まで。さすがに筐体は更新されている

 

燻し銀の鈍い輝きを放つビンテージ建築。ガルバリウムの壁を纏った木造の我が家もいつかこのような重厚さと渋さを纏うことが出来るだろうか。まあ手入れ次第だな