カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

一期一会の床材

もう13年も前のこと、今はなき亀戸サンストリートタリーズで行ったS氏との我が家の建築プランの打ち合わせの際だったかで床材は古材がいいなどと生意気に話したことを憶えているが、実際のところ古材を住宅の床材に用いるのは割とハードルが高い。一般に流通する古材は使い込まれた足場板や古い小屋から引っぺがされた壁材が原材料であることが多く、したがって当然ながら実(さね)を持たない場合が殆どであるからだ。

 

この被りの凹凸が実(さね)

湿気や乾燥により床材の隙間が空いたり反り返ったりすることを抑える役目を果たすこの実がない、真っ直ぐな板をただ並べただけの床は厄介な経年変化を来たすリスクが大きいことはことは誰にでも容易に想像がつく。また古材は古材であるが故に表面が荒く、素足を滑らせる床としては些かの危険を伴う。屋外のデッキや土足で歩き回る前提の店舗の床なら大した問題ではなかろうが、裸足で生活しその上に座ったり寝転んだりする家の床においては問題となるだろう。当時相談した古材専門店の(株)小山製材木材の社長もはっきりと「お家の床にはちょっとお勧めできないですね」と言い切ったものだ。わざわざ実加工を施した古材はありそうでなかなかない。あったとしても高価なものとなる。

 結局その時は床材にするのに丁度いい古材も見つからなかったので漠とした希望は漠としたまま流れ、我が家の床にはS氏お勧めの杉・・ではなくて、たまたま見つけて飛びついた長尺(乱尺でもユニでもない)で幅広(150㎜)でぶ厚い(18㎜)アメリカのブラックウォルナットを取り寄せることに相成った*1のだが、それ以来小山製材のメルマガはずっと読んでいる。買うためでなくとも、メルマガでいち早く紹介される新しく仕入れられた古材を目にするだけでも楽しい。稀にこれはという素材を目にすることもある。最新のメルマガで紹介された、実加工が施されたマホガニーの古材などまさにそれ。世に流通している古材はその殆どがパイン(松)やシダー(杉)、あるいはダグラスファー(米松)といった針葉樹であり、広葉樹の古材は珍しいしマホガニーなどさらに珍しい。そして出自が船の甲板である古材もまた非常に珍しい。


珍しい X 珍しい = 極めて珍しい。かれこれ13年に渡りずーっと古材メルマガをチェックしていてもなかなかお目にかかれる古材ではない。家づくりを志していた13年前の自分が目にしていたら間違いなく購入に走っていたであろうが、さすがに13年ものすれ違いでは悔しい気持ちも起こらない。ビンテージアイテムは基本的に現品限りの一期一会であって、丁度いい時期に丁度いい品に巡り会えるかは正しく運次第。金でどうにかできる問題でもない。ビンテージを買うことはそれに付随する過去を買うことでもあるのだが、この「フィリピンで伐採され欧州に運ばれ、そこで船の甲板に加工されて世界中の海を巡った」*2というロマンの塊のような物語を背負った古材を我が家の床に用いる幸運な施主は床を肴に七つの海に思いを馳せながら毎夜うまい酒が飲めるに違いない。羨ましい限りだ。

 

と、ここまで書いたところで、そういえば我が家にも床張り工事の際に盛大に余らせたまま使われることなく、箱から開封されることもなく部屋の隅で眠り続けているウォルナットの板材があったことを思い出す。四箱分で合計すれば四畳半程度分にはなろうか*3、これの処分にも頭が痛い。実ががっちり組み合わさっているフローリングの床を「一枚だけ張り替える」ようなことは事実上不可能で、であれば予備あるいはスペアとして少量の床材をこうして手元に保管しておくことには何の意味もない。ただ部屋が狭く見苦しくなるだけだ。床張り工事が終わった時に幹さんに引き取ってもらえば良かったのだが、13年前の前のことを今更ああだこうだ言っても詮無き事。さすがに捨てるのも忍びないのでオークションにでも出すとするか・・小部屋の床にでも張ってもらえばこの木材も本望だろう。

 

*1:あの代理店もう廃業してしまったのかなあ、今となっては見つからない

*2:実際にはもしかして近海をウロウロしていただけかもしれないが、そこはそれ思い込んだ者勝ちである

*3:よくよく考えれば結構な発注ミスではあるまいか