カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

越南縦断(2)3月2日 ハノイからフエ

空港からおよそ45分でハノイ中心部に到着


空港からおよそ40分も走ると、バスの汚れた車窓からの眺めはいかにも賑やかな街の風景に変わった。
走行中にスマホで調べたところによると、この路線バスは目的地であるハノイ駅前には止まらない。Googleマップで自分の位置が駅に近づいたあたりの適当なバス停でとりあえず下車すると、その場で駅までのおよそのルートを確認する。徒歩でおよそ1.7㎞程度ならまずまずの近さだ。左手にスマホを持ち右手にスーツケースを提げて早速移動を開始した。*1

3月初めのハノイの街は日本で言えば6月上旬程度の気温だろうか、暑いといえば暑いがそれほどの暑さではない。街を歩き始めてまず圧倒されたのが噂通りの交通ラッシュ、そして雲霞の如きバイクの数だ。

 


 

ベトナムにおける歩行者の作法

交通量もさることながら、この地における交通ルールの違いにも面喰らう。信号無視も逆走も当たり前、歩道走行もまた当たり前。こっそりという様子でもなくけたたましいクラクションで歩行者を蹴散らしながら堂々と違法走行を繰り広げる。歩行者優先という概念などある筈もないので、信号機のない横断歩道は全く意味をなさない。そして街中に信号機は非常に少ない。車が止まってくれるのを待っていたら半永久的に通りを横断することなどできないので、歩行者も意を決して車やバイクの濁流の中に横から突入していくしかない。慣れない内はこれは非常な恐怖を伴うのだが、何回か試みるうちにやってくる車両の進行方向を読んでそれを躱す様に歩を進めれば無事渡り切れることに気が付く。こちらに向かって走ってくる車両をじっと眺めればどちらの方向に抜けて行くか流れが読める。決していきなり真横にスライドすることはない。川の流れに沿って流れてくる筏のようなものだ。それに重ならない位置に自分の身を置けばいいだけ。ドッジボールが得意だった人なら適応は早いのではないだろうか。

駅への道すがら、期せずしてTOTOINAXの専門店から名も知れないメーカーまで、水栓やトイレ、バスタブなどばかり売っている店が軒を連ねる通りを通過する。なかなか面白い。

TOTOショールームは最も大きく豪華

こちらはグローエ

以降何度となく目にすることになるコロニアル様式の伝統的住宅
ハノイ

喧噪の街中を暫く歩きハノイ駅に到着した。今晩はハノイに投宿することなくこのまま夜行列車でフエに向かい時間とホテル代を節約する強行日程を組んでいる。発車時間まではなお2時間ほど余裕があったので暫く駅周辺をうろつき、ついでに駅近くの定食屋でミーゴレンのような焼きそばで夕食を済ませる。隣のテーブルでは地元のおじさんグループが何事か喧しく言葉を交わしつつ賑やかに飲み食いをしている大衆食堂といったところ。同じ通りには白人の観光客で賑わっているステーキハウスもあったが、そもそもベトナムくんだりまで来てステーキもあるまい。旅先では基本的に地元民と同じ店で飲食する流儀なので、この国においても滞在中は大衆食堂の証である薄っぺらいプラ椅子に腰かけて食事を摂るのが常となった。

 

夜になっても混雑は全く変わらない

至る所で見かけるココナッツジューススタンド

人口800万人の首都の中央駅にしてはちんまりしたハノイ

ペラペラのプラ椅子がこの国の大衆食堂/酒場の特徴

駅前のハイランドコーヒー。数少ないクレカOKの全国チェーンカフェ

フエ行き夜行列車は19時50分発
ベトナム国鉄の一等寝台とは

発車時間が近づいたので駅に入場しプラットフォームへと進む*2。なんでもありの国らしくホームではどこでも見送り客も乗車前の客もところかまわずタバコを吸い*3、菓子など食い散らし、どこから入ったのか知らないがホームまでバイクで堂々と入ってくる強者もいる。勿論誰も咎められることはない。

外国人乗客もホームで一服。車掌の英語力は中学生程度

ホーム間階段からの俯瞰ショット。スクーターはどこから入ってきた

一晩過ごす一等コンパートメントを外から

一晩過ごす一等コンパートメントを内から

長距離寝台列車は特等から二等までの三段階あり、自分が選んだフエまで6000円弱の一等寝台は二段ベッドが向い合せに並ぶ四人コンパートメント。特等寝台であれば二人部屋になるのだろう。こんな狭い所に大の大人が四人も押し込まれたらさぞ窮屈だろうと思われる小さな四角い空間には、しかし自分の他には漫画をむさぼり読む子供のようにひたすらガイドブックを読みふけっている眼鏡をかけたおさげ髪のバックパッカーの白人女性が一人入っただけだった。お陰でそれほど閉塞感を感じることもなく一晩を過ごすことが出来たのだが、しかしこういうのって普通異性を相部屋にしたりしないのではないだろうか。こんな無頓着さもこの国らしいと言えるかもしれない。まあこちらは一向に構わないのだけど。

コンパートメントには小さなミネラルウォーターのボトルが乗客一人に一本ずつ提供され、発車して間もなく車掌が検札に回ってきた以降は駅に到着することまで何が起きることもない。夜行で移動するのには慣れているが、この寝台車で過ごす一晩は凄く快適とは言い難いものだった。きちんと取り換えられたシーツは清潔でその点は問題ないのだが、小柄なベトナム人に合わせて作られた小さなベッドは平均的日本人サイズである自分ですらやや窮屈に感じる。車内はうすら寒く、何よりトイレの汚さには閉口した。しかも自分の車両はトイレの具合があまり宜しくないらしく、車両全体にそこはかとなくウンコ臭がBGMのように常に漂っている*4。お年を召した人なら昔懐かしの国鉄時代のきったない長距離列車を懐かしく思い出すかもしれないが、いや別にそんなノスタルジーは要らん。

ハノイから670km南下したところにあるフエまでの所要時間はおよそ12時間。飛行機の国内線を使用すればであればたった1時間で到着し、運賃も高いとはいえ特等寝台料金の2倍程度で済むのだから、コスパを求めるのであればベトナム国内の長距離移動は飛行機一択*5。まあ一度は鉄道の旅で旅情を味わうのも悪くはなかろう。二度はなくてもいいかもしれないが。

 

日本人にはちょっときっつい伝統的トイレ。トイレットペーパーの代わりにホースと水道

特等車はトイレットペーパー付き洋式トイレ。トイレのグレードでも差がつくのか・・

 

*1:スーツケースは手で提げて持ち運べるキャビンサイズの小ぶりなケース一つ、従ってガラガラと引くことはない。というのが旅のスタイルだ。

*2:なお切符は勿論ネットで事前購入のEチケット

*3:ていうか明確な禁煙ゾーンは後日訪れるホーチミン廟周辺くらいしかなかった

*4:ベトナムの街はどこもそこはかとなくウンコ臭い

*5:他の移動手段としては長距離バスもあるが、横になることもできない座席で一晩を過ごすのはさすがにきついのでこれは問題外。