スパース・ナ・クラヴィー教会の見どころは足元
サンクトペテルブルクはモスクワほど大きい街ではないので見どころは比較的コンパクトに纏まっている。市の中心部にあって一番手軽に訪れやすい見どころはスパース・ナ・クラヴィーСпас на Крови教会、正式名称はハリストス復活大聖堂というらしいが日本語では「血の上の救世主教会」という物騒な通称で知られている。なんでそんな通称がついたかと言えば1881年に皇帝アレクサンドル二世が暗殺された現場に建てられた教会なので。
(アレクサンドル二世は日本史の教科書に出てくるプチャーチンを日本に派遣して日露和親条約を結んだニコライ一世の子、ニコライ一世は女帝エカチェリーナ二世のバカ息子パーヴェル一世の子なのですなわちアレクサンドル二世はエカチェリーナの曾孫にあたり、またロシア最後の皇帝となったニコライ二世は孫にあたる。アレクサンドル二世を爆殺したナロードニキと呼ばれる反政府活動家グループは後にその孫ニコライと帝国をロシア革命で葬り去ることになるボリシェビキの始祖というべき存在であり…など、近代欧州史は複雑かつ多角的に事情が絡み合っている様が非常に面白い。日本史でも戦国時代の東北地方の大名は互いに親戚同士のようなものだが、欧州ではさらにスケールが大きく国単位で王室が親戚関係だからより面白い。急速に近代化が進んだ19世紀の欧州でも政治面では未だ中世の面影を強く残し、外交や戦争には単に国益だけでなく義理人情や感情が大きく影響しているそのアンバランスさも興味をそそる)
サンクトペテルブルクの見どころ三大教会を勝手に決めれば聖イサアク大聖堂とカザン大聖堂、そしてここスパース・ナ・クラヴィー。イサアクからカザンまでは徒歩20分、カザンからクラヴィー*1までは徒歩10分とかからないからこの街を訪れた観光客はまず全て足を運ぶのではないだろうか。
実際に市民の教会として活動しているカザン大聖堂、ビザンチン様式が古めかしいイサアク大聖堂と比べ最も華やかで美しい教会がここスパース・ナ・クラヴィー。入場するとまず少しの隙間もなく壁画と天井画で埋め尽くされた空間に圧倒されるが、この教会の最大の見どころは足元のモザイク床にある。計算機もなければグラインダーもなく、手書きの寸法図片手に手作業で石を切り出していた19世紀にこれだけ精密で美しく寸分のずれもない(目地で調整とかの類の誤魔化しも一切ない)直線と円弧が組み合わされた芸術的なモザイク床を作り上げた職人技とセンスには感嘆するばかり。同じことを現在の職人がやろうとしてもそう簡単にはできないのではないだろうか。1.5メートル×1メートルにも満たない我が家の玄関のタイル張りに四苦八苦するぽんこつDIY職人も、その霊感の一滴でも恩恵に預かれたら大変に助かるのだが。
すごいね、職人。
*1:Кровиは血という意味だからクラヴィーという略し方は適切ではないかもしれない