カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

残念と思わないことを残念と思わないのは残念なのか

先日、友人の一人が住んでいたマンションを売却した。

山手線駅直結のタワマン上層階という非常に条件のいい物件ではあるものの、新築で購入した15年前の当時は今にして思えば不動産が底値であった頃。確か4000万円台半ばと当時にしてもかなり割安に購入したと記憶しているが、この度の買い取り値段を聞いて思わずのけ反った。その額なんと1.1億円。そしてその部屋は1000万円ほどの利益を上乗せされて現在1.2億円余で売りに出されている。

前述のとおり好条件が重なったとはいえ、15年落ちの、そして元々は4000万円台の部屋が今や軽く一億超えである。およそ2.4倍もの値上がりはさすがに尋常ではない。
ここで軽く収支を試算してみると、売却益に課せられる税金を差し引いておよそ9000万円が彼の手元に残り、これまでにローン利息込みで6000万円を支払っていたとして、これを差し引けば純利益としては3000万円。実際には例え購入しなかったとしても賃貸の住居費は発生していた筈で、これを2700万円(家賃15万円×15年間)として先述の6000万円の購入費用から差し引けば購入に要した費用は実質で3300万円。これを9000万円の利益から差し引けば15年間で5700万円の純利益

勿論彼の部屋だけでなく、どの不動産物件も程度の差こそあれ爆上がりしていることには違いないので、彼が都内で同等の条件の部屋を新たに購入しようとすればこの利益など全て吹っ飛んで余りあるだろう。しかし価格高騰の波が押し寄せていない郊外であれば、あるいは当面賃貸生活を送りながら暴騰した相場が落ち着くのを待つ余裕があるのであれば、この濡れ手に粟の利益を温存しながら新たな家を手に入れることが出来る。

彼は後者を選んだようだ。9000万円もの元手で開始するのなら相当に手堅い=儲けの少ない投資を選択したとしてもすぐに一億の大台には到達する。またこの先ずっと賃貸で十分だと思い切れるのであれば、同等に利便性の高い場所の相当にいい部屋であっても月々の家賃は運用益から軽く捻出することが出来る。元手に一切手を付けることなく。
なかなかに賢い選択だ。よほど下手を打たない限り、少なくとも金銭面においては彼の老後はこれで安泰が約束されたようなもの。家に何のこだわりも執着もない人間ならではの決断の速さと言えるだろう。

「その家も査定するだけしてみれば?」と彼に言われるまでもなく、自分の家は現在幾らの値がつくのだろうとの考えが心を過らなかった筈はない。しかしS氏がペンも折れよとばかりに心を込めて図面を引き、自分としても指紋が付いていない箇所がないほど家中に自ら手を入れまくったこのLWH002を多少の儲けとは引き換えに出来ない。さすがに何億円もの値が付くならハイ喜んでって感じにはなるだろうが。

板垣恵介

例えばリモートワークを前提として思い切ってライフスタイルを切り替え、古河や湯河原あたりに拠点を移して新たに建てた(ずっと大きな)家で新生活を開始するのも、今であれば持ち出しゼロどころか相当に懐が温まった状態で可能だろう。我が家もそれが立つ場所も何ら気に入るところがなかったのであれば、あるいはこういった案も真剣に検討したかもしれない。しかし残念なことに自分としては到底その心境には至らないし、そのことを本当に残念だと思うこともついぞないであろうことをして残念と言っていいのかどうか。(?)