カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

2月5日、雪

天気予報通り午後から降り出した雪の中、着火したハクキンカイロをコートのポケットに突っ込み勇んでスーパーに買い出しに出かける。都内に雪が降るなど年に何回もないこと、であれば楽しまなければ損というもの。

吹雪に霞む神田川

吹雪に霞むLWH002

雪を被ったアオダモは下から照らされお化けのよう

客もまばらな業務スーパーなど梯子して帰宅すると、雪に濡れ冷え切った身体を淹れたばかりのコーヒーで温める。湯気の立ちあがる暖かいキッチンから窓越しに極寒の外界を眺めるのも冬の楽しみの一つ。
濡れそぼつ下界の様子を眺めつつコーヒーを啜っていると、何やら近くでアイスバーンでタイヤが空転する異様な大音量が響く。二階に駆け上がって居候と共に北向きの窓から外を見やると、案の定そこには坂の途中で立ち往生している配送の軽バンの姿が眼前に見えた。

 

ここで引き返しておけばよかったのに

登り切れず空転するばかりのサマータイヤに難儀している。雪道は甘くない。ましてこんな結構な急坂をサマータイヤで上ろうなど無茶だ。ここは大人しくバックで下がり、面倒だが配達の品は坂の下から徒歩で往復するしかないだろう。

と思って見ていると、降りてきたドライバーは何をとち狂ったのか取り出したスコップでおもむろにあちこち路面を掘り返し、再び運転席に戻るとタイヤの空転の音を更に響かせながら無理矢理にでも坂を上り切ろうとする。案の定、坂を上り切らない内にずるずると斜めに回転しながら横滑りを始めた軽バンは側壁と電柱に車体右側面を擦り付けるようにして止まってしまった。二進も三進もいかない、進退窮まるとは正にこの事。

 

あーあー

騒ぎを聞きつけた近隣住民が数人集まって何とか助けようとしているのが見えたが、その輪に加わる気にはならない。こうなってはもはや打つ手はない。チェーンを履くか土嚢二つ分くらいの砂利を滑り止めにするか、どちらも出来ないのであれば外気温が上昇し凍結が溶けるのを待つしかない。少なくとも雪が降り続け気温は氷点まで下がり、要するに時間が経過するほど状況は悪化するのだから今出来ないのであればこの後は更に出来ない。なので押っ取り刀で駆け付けたところで無駄足でしかない。
案の定打つ手のないまま姿を消したボランティアと入れ替わりに警察官が一組やってきたが、彼らとて脱出に手を貸せるわけではない。やがて警察官もドライバーも姿を消し、人影のない坂道にはスタックした軽バンだけが取り残された・・