カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

北の大三角形の旅(9)2020年3月4日 Longyearbyen 3(ホッキョクグマの幻影に怯えながら遠景)

在宅勤務から出社頻度が増えつつある昨今、朝起きてから夜寝るまで仕事という超絶ブラックなリモートワーク環境を脱出してやっと出社ベースに戻れそうなのでほっとする。やはり家は働く場所ではない。まず働く用の椅子がない*1から身体にかかる負担からして半端ではないし。という訳で、毎日へとへとで土日は体力回復に努めるのが精いっぱいの2020年の夏も終わり、体力をガリガリ削り取るリモワの頻度も下がってきて漸くブログに手を付ける余裕も出来てきた次第。

 

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町の夜景を撮影してみたいと思い立ち、スーパーを出るとすっかり夜になったロングイエールビーンの町外れの丘を目指して歩きだす。町の灯が徐々に遠くなり、背中から照らす月明かりのみを頼りに、長く伸びた自分の影を追うようにして道なき雪の丘を膝まで沈みながらゆっくり上る。

この辺でいいかと丘の中腹から遠くの町を臨む。人間どころか建物も木も岩も何もなく、時折吹き付けるザラメのような雪交じりの風以外には全く音もしない雪の斜面に自分一人だけが月明かりに照らされて座っている。
どれくらいそのままぼーっとしていたのか分からないが、そうだ撮影をしなければとふと我に返って三脚を取り出しながら気が付いたのは、ここは人間よりホッキョクグマの方が多い島だという事実。
吉村昭羆嵐グリズリーマンの最期(超閲覧注意)を知っている身としては熊の恐ろしさについては重々知っているつもりではあるが、ホッキョクグマは更にでかくて恐ろしいんだよねえ確か。地上最大の肉食獣じゃなかったか

 

羆嵐と同じ事件を題材にした番組

 

クマ牧場の丸々と太って人馴れした熊はおどけた仕草が可愛らしいが、実際の野生の熊ってこんなんだからね

 

 

町外れとはいえさすがにこんなところまで来るはずはないと理解はしていても、出ないはずの札幌の区内にヒグマが出た報道などを同時に思い出し、ひょっとしたらという疑念と恐ろしさが膨らんでくる。少なくとも札幌にヒグマが出没する確率よりロングイエールビーンの街はずれにホッキョクグマが出没する確率の方が遥かに高いだろうし、何しろ見渡す限り動くものは何もない雪原のことだから、万一のことがあったとしても叫ぼうと騒ごうと誰も気づきはしない…

恐怖にはいろいろな種類があるものだが、「喰われる」という生物の本能にダイレクトに訴える恐怖には格別のものがある。羆嵐の中での被害者の夫の呟き「おっかあが、少しになっている」みたいなことになったら嫌だなあ、嫌だなー嫌だなーなんか怖いなーと稲川淳二のようにぶつぶつ呟きながらファインダーを覗き、ズームでぐいっと寄せると、10秒に合わせてシャッターを切る。シャッターボタンを押してからシャッターが下りるまで息を殺し待機しながらも、背後からあの荒々しい息遣いが聞こえてくるのではないかと気が気でない。

 

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凍てつく夜に凛として輝く月明かりが綺麗に取れたのを確認したところで、大急ぎで機材を片付けてさあ撤収撤収。帰りは転がり落ちるのが楽で速いよ!

*1:仕事用の椅子を買えばいいといってもちゃんとした椅子は10万円は下らないし、それ以上に場所を取るのが大問題。仕事以外では使い道のない(デザイン的に使いたくもない)椅子を収納できる物置きは我が家にはない訳で