カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

第三期内壁工事(12)第十三次工事(11/3-11/4)

 

9月中に週末二回ほどで終える青写真はどこへやら、当初の予定を遥かに超えついに11月に突入した左官工事。「地獄の黙示録」の撮影もかくやという夥しい工期の延伸を誰が予想しただろう。かの映画はコッポラの完璧主義(と、主演マーロンブランドのちゃらんぽらんぶり)が災いして撮影スケジュールの大幅な延伸と相成ったのだが、我が家の工期の延伸の主因は施工者の不器用さ加減であるという点で次元が違う。しかし文化の日に敢行した、また一連の第三期内壁工事の締めくくりとなった一階洗面スペースの南側の壁への二度目の漆喰塗りなおし(=五度目六度目の鏝塗り施工)だけはコッポラの心境に相通じるものがあったかもしれない。たとえ誰も気にも留めぬ瑕疵であろうと関係ない。DIYは自分自身の為に行うものであり、であるならば、自分自身がどうしても納得できない気持ちを引きずるような箇所は直されるべきなのだ*1

ということで取り寄せること三度*2となったカラー漆喰が到着するのを待ち、眦を決して挑んだ三度目の正直。まずは壁の表面に一時間ほどかけて丁寧にペーパーをかけ、塗布したワックスを残らず落としてしまうってから最後の鏝塗りに取り掛かる。
注意深く秤で計測して漆喰を等分すると、その片方に少しずつ水を加えながら丁寧に攪拌。柔らかめに練った漆喰を鏝板に盛るといよいよ壁に向き合う。第十三次となったこの工事がこれまでの経験の集大成のつもりで残りの集中力を全て注いで鏝を振るう。ああ、しかし何と塗りやすい。熱いトーストに乗せたバターのようにするすると広がっていく滑らかな漆喰は長く苦しい工事の最後に残されたデザートのようなものだ。

午前中三時間かけて一度目(五度目)の塗りを終え、半乾きとなった夜に二度目(六度目)の塗り。合わせて7時間かけた最後の工程を終えると壁の前で感慨に浸りながら祝杯を傾ける・・なんてことは勿論なくて、最後の一鏝を塗り終わった次の瞬間には養生テープを引っぺがして後かたづけに突入。もう何時間かしたら出勤に出かけなくてはならないし現実は甘くないのよ。

一日たってあらかた水分が飛んで表面が乾燥すると、今回の一連の工事で最も会心の出来となる仕上がり。表面はほぼ平滑に均され、鏝で丁寧に何度も撫でつけた甲斐あってところどころは赤子の尻のようにすべすべな肌触り。隅々まで丁寧に鏝を叩きこんだので、引けによる隙間も発生していない。六回も(そんなに塗り重ねる奴はそうそういない)塗り重ねたことで夜明け前の空のような微妙な藍色は更に深みを増し、やっと最後に報われたような心持ちがする。

フランス漆喰と100年前のフランスのペーパーホルダー。やはり画像では微妙な色合いは再現できない

終わりよければ全てよしとすっかり気をよくした単純な性分。これを台無しとするワックスがけの愚は勿論犯さない。しかし大量に余ったワックスはどうしたものか。

そんなに綺麗に塗れるならスイス漆喰などではなくそのカラー漆喰を全ての壁に塗ればよかったのではないかと言えなくもないが、これはとてつもなく高価なので全ての壁に用いるのであればとんでもない予算となってしまう。それに漆喰の白さはやはり何物にも代え難い。和漆喰が紙のような白さであれば西洋漆喰は石のような白さ、同じ白でも微妙にトーンが違うのが面白い。どちらも尊い。あくまで感想ということで。

*1:逆を言えば、誰もが「それは変だ」と言おうと自分自身が納得できるならそれでいい。

*2:九月から十月にかけては個人客ではおそらく自分が漆喰販売代理店の一番の太客であったろう。どんな豪邸であるかと思われたかもしれない。