カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

第三期内壁工事(14)塗りも塗ったり(了)

第三期内壁工事スタメンの顔ぶれは第二期工事時とほぼ同じ

足かけ一月半に渡った第三期内壁工事で壁に塗り付けた漆喰の量はおよそ300㎏、下地材を含めれば更に20㎏ほどプラスされる。全ての漆喰は納められていたドラムの隅々までシリコンのスクレーパーを用いて残らず掻き出しきっちりと使い切っているので、これは掛け値なしの施工量。8年前の第二期工事で一階と二階の北面の壁に用いた漆喰は40㎏(下地材を含めても42㎏)に過ぎなかったので、今回の施工面積が前回の3倍に達することを考慮してもなおどれだけ厚塗りであったかが伺える。

これだけの量の漆喰を全て手ずから鏝塗りしたことでやり切った感が湧き上がらない筈がない。しかし自分と同じような工事(住みながら全ての壁にスイス漆喰の鏝塗りをう)を他人に勧められるかといえば「やめとけ」と言う。素直に金で解決(プロに依頼)することをお勧めする。

これまでに施工したタイル貼りでも床張りでも「誰にでもできることだから是非やってみて」というスタンスだった自分がなぜ今回だけはやめとけというのか。理由はこれまでの一連のエントリを見れば察せられるかと思うが、生活空間で工事を行うのは困難である点、一度始めたらやめられないので気力体力を著しく消耗するという点、「養生の養生」が必要なレベルで家をすさまじく汚す点、何より単純に「左官は難しい」からというのが最大の理由。経験に基づいて言うならタイル貼りより床張りよりプロと素人の腕の差が最も如実に表れるのが左官工事であり、左官職人の(平米単価四千円以上の)高い工賃は伊達ではないということは実際に鏝を手に取ってみれば誰にでも嫌と言う程分かる筈だ。
夥しい時間とコストをかけ尋常でない体力を消耗し少なからず日常生活に支障を来たし、下手をすれば家庭不和まで引き起こして何とか施工を終えてみてもその結果は納得のいく仕上がりには程遠い。それは多くの人には耐え難いことであろうから、少なくとも住まいの壁全面の鏝塗りDIYはお勧めしない。「鏝塗りをやってみたい」というのであれば六畳間の壁一面程度にとどめておくのがコスパからもタイパ(タイムパフォーマンスではなくて体力パフォーマンス)からもお勧めできる妥当な範囲。勿論、用いるのは塗りやすさを十分考慮された和漆喰。間違っても癖の強すぎるスイス漆喰になど手を出してはいけない。

とは言うもののたかが壁塗りの話、別に失敗したところで死ぬわけでもないし財産を失うわけでもない。どうってことはない。自分ではどうにもならなくなってもプロに頼めば綺麗に仕上げてくれるのだし、困難を承知の上でなお是非やりたいというのであれば止める理由はない。
一連のエントリを見てよし俺もやってみようと嬉々として自ら沼に嵌る愚か者は多分1000人に1人くらいではないかと思われるが、嵌った沼の先にしかない景色は沼に嵌った者しか見ることは出来ない。手ずから鏝塗りした漆喰の壁が反射する屈託のない白い光(これぞ素材の力)に包まれることで湧き上がる不思議な充足感、こればかりはやってみなければ味わえないものだろうし、仕上がりがどうであろうと自分にとっての正解はやはりこれだったんだろうとも思う。1000人に1人のあなたへ、沼へようこそ。