カサエゴ

Casa Egoista (定員一名の小さな家)

LWHでの「お話会」

令和となって5回目の天皇誕生日が巡ってきた日、S氏が主宰する「お話会」が我が家であるLWH002で開催された。S氏のメルマガ読者から「家づくりを考えている」参加者(そもそも家づくりに興味のない人は氏のメルマガを読んだりしないのだが)を募り、2時間ばかり家づくりに関する「お話」をする会だという。
まあNHKの「10代しゃべり場」の家づくり版のようなものだろうか。S氏がその試みを始めたのは割と最近のこと、したがって既に家持ちの身である自分がその会に参加する機会はなく委細は不明なのだが、これまでの会場であるファミレス(だったか)から趣を変えて我が家で開催してみたいというS氏の意向に沿って今回の場を提供した形となった。

S氏の申し出を受ける際にこちらからつけた注文は二つ、参加費はコーヒーと菓子で還元できる程度の額とすることと少人数とすること。冷やかしよけとして働く参加費を徴収すること自体に異論はないがこれで金を儲けるつもりはないし、折角参加するのであれば一人一人十分に互いの顔を見合って話す時間が与えられなくては勿体ない。勿論、我が家のごく限られたスペースの問題もある。
とは言え、この段階では実際に参加者が集まるかどうかについては少なからず懐疑的ではあった。見も知らない他人の家(しかも得体のしれない独居中年男性の棲み家)で身も知らない他人に囲まれるという100%アウェーに自ら身を置くことはもし自分であれば迷わず尻込みするところだし、それだけの勇気を奮い起こすのはなかなか難しいことだからだ。
ということでダメ元であり誰も手を上げなければ反省会(と称した家飲み)、もし手を上げる方がいたとしても一人だけであったなら可哀想なので*1流会としてやはり反省会にでもしようかと思っていたところ、ほどなくして「枠が埋まりました」との連絡が。

この展開には些か慌てた。これはガチなやつだ。一体何を話せばいいのか、折角参加費を払ってまで参加される方にどうすれば「ああ金の無駄だった」と思わせずにいられるか。そこで家づくりの参考となるような有益な情報を提供すべくネタを仕入れる勉強を行う代わりに、あちこちの洋菓子店で食べ比べなどして場に供する菓子の吟味を開始するところが自分という人間のしょうもないところであり、同時に良いところでもある。少なくとも美味しい菓子を食べさせることは確かな価値の提供であることに違いない。あちこち足を延ばして食べ比べ、結論として自宅最寄りの洋菓子店は無名ながら有名店に劣らずイケていることが分かったのでこちらは一安心。

当日の様子はS氏のメルマガ(ブログ?)を参照されたい。何を話したかはよく覚えていないが、何をうまく話せたか、あるいは何をうまく話せなかったか、全体を通してうまく胸中を表現することは出来なかったような気がする。途中の発言がS氏をいたく傷つけたらしいことは氏のメルマガで分かった笑。釈明ではないが誤解のないように書いておくと、「作家性が薄い」というのはあの文脈においては誉め言葉であり、換言すれば「指一本触れる余地もなく完成された「作品」ではなく、自分で手を加えつつ主体的に家と関わりたいという住み手にそれを許すだけの「道具」としてのバッファがある」ということ。S氏の家に特徴や個性がないという訳では決してない(本当にそういう家がいいのであれば「単なる箱を作ってくれ」と工務店に自ら足を運べば簡単な話だ)。挙げて見ろと言われれば「S氏の家の個性」など軽く五指に余るほど挙げられる。

そんなことはともかく、あの場においては自分が何を話すかよりも、真剣な面持ちの参加者の表情が失望と悔恨で黒く塗りつぶされて行かないかが心配で顔ばかり見ていたような気がする。自身の体験から何を得るか、あるいは得ないかはあくまで個人の問題とは言え、「来るんじゃなかった、金と時間の無駄だった」という心情が顔にありありと浮かびあがる様を眺めるのはこちらとしてもさすがに心が痛む。わざわざ手土産を携えて遠路はるばるやって来て、行儀の悪い猫に話の邪魔をされたり挙句は後ろ髪を齧られたりして*2しかも何も得るものがなかったというのでは気の毒に過ぎる。たとえ反面教師としてでも自らの家づくりのイメージや考え方にプラスになればと願うばかりだ。

S氏がファシリテーターとしての手腕を遺憾なく発揮したため「お話会」は終了予定時間を遥かにオーバーし、会が終わった後に来られる予定であったLWH004の施主Sさんが見えられてもまだまだ続く様子。これ幸いとSさんにも話の輪に加わっていただき、家づくりの現役に最も近い*3立場からお話などしていただいた。家づくり体験を最もリアルに語れる方だけあって、結果から言えばSさんに入っていただいたことでずっと「お話会」の質が高まったのではないかと思う。Sさんほどのこだわりや思索がなければ家づくりが出来ないという訳では決してなく、芯となる部分さえブレずに持っていればそれ以外の面倒は全て外注してしまっても全く構わないのだが。

Sさんが我が家に来訪されるのは二度目、一度目はまだ家づくりのプランを練っている段階であったが、その時と比較すればやはり「成し遂げた」人間だけが醸し出すある種の余裕や自信といったものを漂わせたいい顔になっていて、これまでビフォーアフターでお会いした施主は例外なくこういった感じなのだが、これはやはり建売をポンと買っただけでは身に纏えない雰囲気なのではないだろうか。LWH004はウッドショックの直撃を受け相当に難産であった(と聞く)だけに尚更だ。
今回のSさんの来訪目的は我が家の漆喰壁(第三期工事)の見学とのこと。塗りであろうと壁紙であろうと鏝塗りであろうとタイル貼りであろうと100人いればまず98人までは壁なんかには何の関心も抱かないところ、そこは同じく漆喰の壁を持つLWH004の家主として、また家づくりに苦労した者同士の誼というか相通ずる物を感じられたのだとしたら流石だ(Sさんも家づくりにかけては一家言のある相当な好事家である)。そのLWH004も完成に向けてこだわりの庭造りの最中とのことで、こちらも今後どのように変化(進化)していくのかが楽しみな家だ。

 

(なお久々の来客に大喜びして「お話会」を通して(彼女なりの)愛想を振りまくった我が家の居候は、会がお開きとなった後は晩ご飯にも口をつけずこんこんと翌朝まで眠り続けた。一日18時間は睡眠を取っている本人にとってあれだけの長時間目を覚ましているのはそれだけで相当しんどいことであったらしい。このお調子者は一体誰に似たのだろうか)

*1:前述の通りの完全アウェーステージで結託したおっさん二人組に囲まれる訳である。まるでマルチ商法か投資詐欺の勧誘ではないか

*2:さすがに客人へのこの不行儀には頭を一叩き

*3:完成は2022年4月、まだ一年も経っていない